クラタリング(旧)

2021年6月7日

その理解のための手引き

執筆:Kenneth O. St. Louis (ウェストバージニア大学名誉教授)

宮本昌子 飯村大智 深澤菜月 訳・監修

アメリカ吃音財団作成
www.StutteringHelp.org
https://www.tartamudez.org/

*原版に従って日本語に訳しています。内容が日本の現状にそぐわない場合は注記として説明を加えています。

■クラタリングであるかどうかを、どのように知るのか

クラタリングは、吃音と同様に発話流暢性の障害です。
しかし、二つの障害は異なります。
クラタリングには、発話の流れの中に顕著な断絶が見られます。
その断絶は、無計画に組み立てられた発話内容を、異常な速さで、あるいは、息せき切って話すことから、つまり簡単に言うならば、何が言いたいのかよくわからずに話し出すことから生じるようです。
一方、典型的な吃音のある人は、自分たちの言いたいことをしっかり心得ています。
けれども、一時的にそれが言えないのです。
クラタリングは十分に知られておらず、クラタリングのある多くの人が自身を「吃音」とみなしてしまうことから、混乱が生じています。
また同様に、クラタリングは、しばしば吃音と共に生じることからも混乱が生まれます。
クラタリングは、アメリカ言語聴覚協会(American Speech-Language-Hearing Association)の流暢性障害部会によって次のように定義されています。
“クラタリングは流暢性の障害であり、その特徴は、速い、そして/あるいは、一定しない発話速度と顕著な非流暢さにあり、言語、あるいは、音韻上のエラー(誤り)のような他の症状や注意欠如がしばしば伴うことである。”
クラタリングかどうかを判断するには、話し手のどもっていないときの発話を聴くとよいでしょう。
以下の症状のすべてに当てはまる話し手の場合、「明らかに吃音ではない流暢性障害か顕著な非流暢性障害」です。

・発話の「流暢さ」に欠ける:何を言いたいのか、どのように言いたいのかがはっきりしていないように思われる
・挿入や繰り返しといった「正常範囲の(一般的な人にもよくみられる)非流暢性」の頻度が顕著に高い
・発話の際の身体的なもがきが全く、あるいは、わずかにしか認められない
・付随する(二次的な)行動が見られたとしてもほんのわずかである

以下の症状のすべて、あるいは、いくつかに当てはまる話し手には、「速い、そして/あるいは、一定しない発話速度」が見られます。

・全体的な印象においても、1秒当たりに発話される音節数においても「とても速い速度」 の発話である
・音声が「突発的に飛び出す」
・ポーズが短すぎたり、長すぎたりする。また、不適切なところに入る

このように流暢性と発話速度が一般的な発話の姿とは異なる点が、クラタリンクの本質的症状です。
しかしながら、先のアメリカ言語聴覚協会の定義の後半部分に示されている幾つかの症状は、その症状が現れているかいないかはともかく、「この人はクラタリング である」との印象を支持するものです。
したがって、次に述べるような症状が認められるようでしたら、クラタリングの典型的な臨床的な姿であると裏付けられるでしょう。

・言語の組み立てや会話スキルの混乱
・発話流暢性や発話速度の問題に対する無自覚さ
・発話に対して「ゆっくりと」「注意して」などと言われた(あるいは、発話を録音されている)際の一時的な発話の改善
・発音の誤り、あるいは、発話の不明瞭さ、または、音節数の多いことばでは強勢のかからない音節の省略(例:“fortunately(幸運にも)”を“ferchly”と言ってしまう)
・理解しにくい発話内容
・吃音、あるいは、クラタリングのある数人の親族がいる
・クラタリングの症状に起因する社会性、または、職業上の問題
・知的能力が低くない学習障害※
※国によっては学習障害と知的障害の関連性の捉え方が異なります
・乱雑な書字
・注意の転動性、多動性、集中時間の短さ
・聴覚的認知の苦手さ

最近まで、クラタリングに関する情報はヨーロッパからもたらされていました。
1964年に出版された1冊の本を除いて、1930年代から1980年代半ばまで北アメリカではクラタリングは、本格的には知られていなかったのです。
しかし、それ以降、クラタリングの問題に関する注目すべき研究がなされ、注意の目が注がれるようになっています。

■クラタリングの診断は?

治療を始める前に、クラタリングの疑いがあるならば、適切に診断されることが大切です。
診断に際しては、言語聴覚土の意見を求めることが望ましいでしょう。
評価は実に多方面に渡ることが多いものです。ですから、2回以上、評価のために通うことになるでしょう。
また、学級担任、特別支援教育担当教師、心理学者あるいは、(可能ならば)神経心理学に詳しい専門家からの意見や報告を求めるとよいでしょう。
評価には明確に流暢性の問題に対する考察が述べられていなければなりません。
加えて、発話運動、言語、発音、学習、また、社会性の問題に関する考察も必要です。
仮に学校においてクラタリングが疑われるなら、学カテスト(例えば、算数、国語(作文・読み取り))を受けることを勧め ます。また、知能検査を受けるのもよいでしょう。
診断はクラタリングがあるのかどうか、そして、吃音、言語発達障害、学習障害のような他の問題があるのかどうかが具体的に述べられている必要があるでしょう。
仮に吃音のある人にクラタリングがあるならば、自然回復にしても、治療の効果にしても、吃音が軽減するまでクラタリングは気づかれないということをしっかり心にとめて置くことが大切です。

■治療はどのように

直接的に流暢性を扱う前に、概してクラタリングの臨床は流暢性に寄与する問題に最初に取り組みます。
一般的に最初の臨床目標のひとつは、発話速度を落とすことです。
とはいえ、クラタリングのある人がこの目標を達成することはやさしいことではないでしょう。
クラタリングのある人の中には、遅延聴覚フィードバック(DAF)機器によって発話のタイミングを合わせることへの反応が良い人がいます。
若いクラタリングのある人に対して効果が認められている臨床技法には、スピードメーターの比喩を使うものがあります。
それは、速い発話を「スピード違反」の発話として、発話の制限速度を超えた場合「スピード違反切符」が切られるものです。
クラタリングのある人には意図的にポーズを取ることを指導する必要があります。
どこでポーズを取ったらよいかがわからないなら、実際に話してもらった不明確な文章を録音して、書き取らせる方法が有効です。
最初は単語と単語の間にスペースをあけないで、それから、ふつうにスペースをあけるのです。この違いを知ることが、しばしば適切にポーズを取る位置を学ぶ助けになります。
発音(構音)や言語の問題は、クラタリングのある人の発話速度が遅くできるようになると軽減することがよくあります。しかし、時にはこれらの問題に直接かかわる必要もあるでしょう。
別の技法として、しっかりと構成された短い文(例:私の名前はジョンです。私は三ツ目通り148番地に住んでいます。私は表通りに面した薬屋で働いています。)を言う練習から入り、より日常的な言い方(例:こんにちは、ジョンです。勤め先の表通りに面した薬屋から3ブロックのところにある三ツ目通りに住んでいます。)に進む方法があります。
また、クラタリングのある人が、音節数の多い単語(例:パティキュラー particular、 コンディショナルconditional、 ジェネロシティgenerosity)(訳注:太字部分に強勢がある)には、すベて強勢のかからない音節もあるということをつかむために、強勢のかかる音節を強めに発音することを学ぶことにも効果があります。
クラタリングのある人によっては、メッセージの内容(何を)と同時に、伝え方(どのように)の計画を立てることが効果的な場合があります。例えば、「何を」は、電報文の改善を考えることとして教えられます(例:私の車のエンジンがかからなくなる。アクセルを踏んだ。キャブレターが動き出さない)。
それから、「どのように」は、適切な単語を挿入することに注意を向けます(例:ちょっと止まっていると、私の車のエンジンは かからなくなる。エンジンがかかるようにアクセルをしばらく踏んだ。キャブレターが動き出さないことがよくあるんだ)。

心に留めてほしいことは、クラタリングのある人の多くには、また吃音もあるということです。
そして、吃音に覆い隠されていたり、吃音の陰に隠されていたりすることが多いということです。
このようなタイプの人の中には、吃音をコントロールできるようになったり、吃音が軽減したりするに従い、クラタリングが目立ってくる場合もあります。
クラタリングのある人に吃音があるかどうか(あるいは過去にあったかどうか)がはっきりとはわからないとしても、柔らかい声出し、音節の引き伸ばし、呼吸法の修正などの発話流暢性へ注意を向ける臨床技法は、クラタリング症状の多くに有効です。大事なことは、クラタリングのある人が、自分たちの発話に注意を払い、あるいは、モニターし、何らかの手立てを講じ、その症状を軽くすることです。
中には、自分のクラタリング特有のわかりにくい短い文のサンプルに引き続き、自分で修正した筋の通る文のサンプルを毎日聴くことで、モニターカを高めたクラタリングのある大人もいます。
また、一日何回か、「誤った」発話と「正しい」発話のサンプルを聴いたり、比べたりして効果を上げた人もいます。

■セラピーの効果を高めるには?

言語治療がクラタリングのある人に効果的かどうかを予測することは難しいことです。
効果を上げているクラタリングのある人たちは、自分には顕著な発話上の問題があるということを納得していました。友だちから、家族から、雇い主から気づかされたり、自分自身で気づくこともあるでしょう。
また、治療に対する動機づけが鍵を握ります。
例えば、昇進の可能性という動機づけがあることで、一生懸命働く理由をもつようになるのです。
一方、自分の問題に気づけていない、あるいは、それほど心配していないクラタリングのある人は、治療効果がそれほど得られない傾向があります。

■クラタリングへの支援をどのように行えるのか?

クラタリングはありふれた障害ではなく、理解もそれほどされていませんから、言語聴覚士も適切な診断を下し、効果的な治療ができるかどうかといった疑念を漏らすかもしれません。
そうであっても、言語聴覚士はクラタリングに関するいくつかの情報源を参考にすることができます。
このような情報があれば、多くの言語聴覚士が積極的にクラタリングの治療を提供することができます。
幸運にも、吃音を専門とするほとんどの言語聴覚土が、クラタリングの診断と治療にも積極的に取り組もうとしています。アメリカ吃音財団では、あなたのお住まいの地域の流暢性障害を専門とする言語聴覚士を紹介することができます。下記にお問い合わせください(原版では、アメリカ吃音財団のメールアドレス・電話・ホームページアドレスが紹介されています)。

現在(2020年5月9日)までに日本語で入手可能なリソースは以下のとおりです。
<翻訳書>
クラタリング(早口言語症)特徴・診断・治療の最新知見,学苑社,森浩一・宮本昌子監訳,2018
<学齢期用チェックリストのダウンロード>
筑波大学人間系(障害科学域)宮本昌子研究室のホームページ
https://miyamoto-lab.net/
<クラタリングに関する情報>
クラタリングポータルサイト
http://pyonkyo.cocolog-nifty.com/cluttering/

※日本語訳の作業は,中村勝則先生の多大なご協力を得て完成させました。厚くお礼を申し上げます。

Posted by miyamoto-lab